ゆなの視点

30過ぎに戸籍の性別を女性に変更しました。そんな私の目から見た、いろんなことについてお話しできたらと思っています。

GIDの診断とそれ以後の流れ

GIDの診断も、それ以降の手続きもけっこう大変

こんにちは。

みなさんは、性同一性障害(Gender Identity Disorder, GID)の診断がどのように出されるかご存知でしょうか? 私も何せ5年ほど前の記憶で、いまだとプロセスも違うかもしれないし、診断基準も変わっているかもしれません。それに去年WHOで性同一性障害精神疾患から除外されて性別不合(Gender Incongruence)に置き換えられたそうなので、そのうち日本での扱いも変わるのだろうと思います。なので、あくまで私が受けたころの、という但し書き付きですが、どのような流れで診断が出されるのか、そのあとはどんなことがどんな順でできるようになるのかをざっくりとご紹介しようと思います。

診断が出るまで

GIDの診断を受けるのは基本的に精神科になります。とはいえ専門家がそれほど多くなく、そうした病院に行っても診断を受けられないこともあります。GIDを対象としているお医者さんはサイト上でその旨を記していることが多々あるので、あらかじめ確認しておいたほうがいいだろうと思います。電話で訊いても答えてもらえるはず。婦人科などではホルモン治療はおこなっていたりもしますが、GIDの診断自体はしてもらえないと思います。

診断は、カウンセリングを経て出されます。そのときに書くように指示されるのが自分史。自分のこれまでの生涯を文章にまとめて、担当医に提出します。そしてそれをもとに、担当医から「このとき、どんなふうに感じましたか?」などと訊かれたりして、それに答えていきます。で、それが一通り終わると、「では自分史を改めて短く要約してきてください」と指示され、そのようにしました。

私は初めて病院に行ったときには鬱もひどかったので、カウンセリングと並行して鬱の治療もしてもらいました。私だけでなく、性別違和を抱えているひとにはありがちみたいです。鬱のままだとホルモン治療などには危なくて移れないそうです。あと一度だけ子供のころの写真を見せるように言われたこともありました。できたら当時つくったもの(図工の時間に描いた絵とか)がわかるものがいいとのこと。

自分史に関して、私自身もいまいち何を目的としたものなのかわからなくて、いちど「これは何のための作業なのでしょう?」と訊いてみたことがあります。あくまで私の担当をした先生の解釈ということだろうと思いますが、そのときには「いま現在の視点から過去の自分を振り返り、改めてしっかりと言葉にして語り直すことで、自分自身のアイデンティティをきちんとつくり直す」というふうに説明されました。

要するに、正確な記憶を問うているわけではなく、「あなたはこれまでの人生をどのように見て、自分は何者だったのだと思っていますか?」と問われている感じなのかな。実際に診断を受ける際にはそこまで意識せずに、言われるままに書いたらいいのだろうと思いますが、いちおう理屈としてはそういうことだそうです。で、自分史の要約の確認が終わると、正式な診断が下されました。

この自分史、いまいち、どの程度の長さでどんなふうに書くのか調べてもわからず、訊いても「好きなように」としか言われなくて困ったりもしました。けっきょく私はA4にびっしり書いて25頁にわたる大作を書き上げてしまって、診断にやたらと時間がかかることになりました。このブログの記事も、いちばん最初の記事からしていろいろなかたから「長い」とコメントされていたのですが、普通に書くと長くなってしまう性格なんです……。

ホルモン治療と性別適合手術

私の場合は性別適合手術や戸籍の変更まで行ったので、その後の流れもざっくりまとめてみます。

診断が下りて、さらにセカンドオピニオンの先生からも診断を貰い、それに加えて泌尿器科で体の検査もしてもらうと、専門医たちによる判定会議というのにかけてもらうことができます。そこで許可が下りたなら、ホルモン治療を正式に開始してもらうことができます。「正式に」というのは、ガイドラインにきちんと従った形で、ということです。担当医にも打ち明けつつ、実は勝手にフライングして個人輸入をしたホルモン剤を飲んだりもしていましたが……。

体の検査が必要なのは、性分化疾患のような場合には、GIDとは見なされないので、そのあたりを確認するためです。正確な情報は下記のガイドラインをしっかり確認してみてください。ガイドラインも改定されたりするので、最新版を見るようにしてくださいね。
性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン|公益社団法人 日本精神神経学会

その後、1年以上にわたって実生活を希望する性別で送った経験がある場合には、改めてふたりの専門医(担当のお医者さんとセカンドオピニオンの先生)に診断書を作成してもらい、性別適合手術(Sex Reassignment Surgery, SRS)にむけての判定会議を改めて受けることができます。そこで許可が出たらSRSに向けての書類を発行してもらうことができ、希望する病院でSRSを受けることができます。

SRSを受ける際にはまた改めて精神科医による診断が必要になりますが、私がSRSを受けたガモン病院の場合は現地に専門医がいて、そのひとたちに簡単な問診をしてもらっただけでした。SRSを海外で受ける場合は、アテンド会社というものが存在していて、入院や宿泊の手続き、通訳、現地でのいろいろなサポートを請け負ってくれるので、いろいろ探してみたらいいと思います。

ちょっと知り合ったトランス女子さんが、SRSを受けるためには1年以上のホルモン治療歴が必要だという話をしたりもしていたのですが、私の記憶でも、いま改めてガイドラインを見た感じでも、必要なのはホルモン治療ではなく実生活経験(Real Life Experience, RLE)であるように思います。ただガイドラインには「ホルモン治療などを受けていない場合には、もっと長い期間の観察が望ましい」みたいなことは書かれています。このあたり、気になるかたはきちんと担当のお医者さんに確認してみてください。

SRSを受けたときのことについてもいろいろお話したいことがあるのですが、今回は割愛しますね。私はバンコクの病院に行って、1週間の入院(絶対安静で寝返りも打てません……)と、その後にさらに3週間だったかな、それくらいの滞在をしたので、ひと月近くバンコクにいました。このころからダイレーション(膣が塞がらないようにシリコン製の棒を定期的に挿入するメンテナンスで、造膣をした場合には必須)も始まりました。

戸籍変更まで

さて、SRSを受けたらいよいよ戸籍が変更できるようになります。戸籍変更の際に手術が必須というのは、批判も多いしいつか改訂されるかもしれませんが、現時点ではまだそうなっているはず。でも、具体的にどういう手順で戸籍の変更をするのかってよくわからなくないですか?

実は戸籍変更のためにはまたたくさんの診断書が必要になります。いちおう、裁判所の規定は下の通り。
裁判所|性別の取扱いの変更

これによると二人以上の医師による診断書と戸籍謄本(全事項証明書)とだけ書かれているので、また担当医とセカンドオピニオンの先生に診断書をもらえば済むように思うのですが、私のときにはこれに加えて、タイでもらった手術証明や、婦人科で検査を受けて出してもらった診断書も提出しました。現在の規則では、生殖腺が失われていることや希望する性別の典型的な性器に類似した形状の性器を備えていることが条件になっているので、そのあたりの証明ですね。

書類は住所地の家庭裁判所に出すことになっていたのだったと思います。私のときには、その裁判所ではまだ前例がなかったのか、職員さんも不慣れなようで、大きなファイルを片手にがんばって対応してくれました。書類を出す際にはもろもろのやり取りのための切手を買って一緒に出さないといけないらしく、けっこう細かくどの切手が何枚みたいなことを指定されて、裁判所内の郵便局で買ったりしました。裁判所に行ったあとにお金をおろそうとすかすかの財布で出かけてしまったせいで、切手を買ったあとの残金が120円くらいになっていた記憶があります。

その後は裁判です。前例の多い裁判所ならスムーズなのかもしれませんが、私はこの段階で数か月も待たされました。で、裁判所に呼ばれたら裁判を受けることになるのですが、残念ながら法廷でとんかちみたいなのを持った裁判長に向かって何かを宣言するなどといったことはなく、ただの会議室みたいなところで話を聞かれただけで、数分で終わりました。あとはまた数日待っていれば「変更しました」というお知らせが来ます。戸籍の性別が変わると、住民票の性別も自動的に切り替わります。

パスポート、保険証、年金手帳、運転免許証、マイナンバーカードなどの性別は変わりませんので、それぞれ個別に手続きをすることになります。パスポートは再発行。保険証と年金手帳も再発行ですが、これは勤務先に伝えたら手配してくれました。運転免許証は、見えるところには性別の記載がないので放置してもよさそうなものですが、いちおう中にあるICチップに情報があるようでしたので、免許センターに行って申し込みをしました。

マイナンバーカードは、ずっと発行せずにいたのでこの機会にカード自体をつくりました。本当はカードは別にいらなかったので通知書の性別記載だけを変えてほしかったのですが、「男性」という記載自体は消すことができなくて但し書きがつくだけと説明されたので、諦めました。でもたしか最近になってどこかのトランスさんがしっかりと申し出て、通知書の再発行に応じるよう働きかけたりしたはずで、いまならそういうこともできるのではないかと思います。

銀行やクレジットカード、あと住んでいるアパートなどにもそれぞれ事情を説明し、求められたら書類を送ったりしました。そのころには住民票の性別が切り替わっているので、たいていは住民票の写しを送るだけです。さすが公的証明書、強い! 診断書とかでどうにか証明するしかなかったころとは大違いです!

いや本当に、長いこと自分の性別の話をするにも高いお金を払って診断書をつくってもらうほかなかった身ですから、住民票を出すだけで済むようになったのはかなり楽でした。はっきりと「女性」と書いてありますしね。住民票をかざすときには水戸黄門気分でした。

ところで、もしかしたらここまで読まれたかたは「あれ?」と思ったかもしれません。そう、実は私は、名前は変更していないのです。というのも、もともと中性的というか、男のひとにも女のひとにも見られるような名前だったし、自分でも気に入っていたので、「まあ変えなくてもいいか」と思い、結局いまももとの名前のままなんですよね。なので、改名の手続きについては私はまったく知りません。改名の際に裁判を受けていれば性別変更もスムーズだという話も聞いたことがあります。

とにかくお金がかかる!

お金がひたすらかかる、これが本当にきついです。GID関係の費用というとホルモン治療とSRSの料金ばかりよく話題になりますが、ざっと見てもらうとわかるように、何度も何度も診断書を書いてもらう必要があるんですよね。そして自費診療なので病院によっても変わってくるのかもですが、私が通っていたところではけっこう1通の診断書に数万円かかるようなこともあったりしました(記憶がおぼろげですが、ホルモン治療前、SRS前、裁判前で値段が違ったような……)。しかも私はSRSを受ける準備をし出す直前に引っ越したりもして、でも診断書だけ新しいところで書いてもらうというのも面倒で、わざわざ飛行機で病院に行って診断書を発行してもらったりしていました。

幸いにして両親がかなりサポーティブだったので、いろいろと費用を出してもらったりもしたのですが、それでももちろん自分のお金もどんどん使うわけで、この時期は本当に経済的に苦しかったです。収入もいまより少なかったし……。

あとここには書いていませんが、もちろん脱毛にも通っていましたし(いまも通っています)、さらに私は診断を受けに行くときにもまだ男性服などを着ていて、メイクもしたりしていなかったので、診断を受けたりホルモン治療とかを始めたりし出してようやく服やメイクを買うようになったわけで、何せ先立つ服やメイク用品が何もなく、そちらでも出費がたいへんでした。

どのくらいからそういった移行を本格的に始めるのかはひとそれぞれだと思うのですが、私は本当に、胸が膨らみだし、男性服で男性用トイレに入っても清掃員さんに「お姉さん、こっちじゃないよ」などと注意されるようになるころまでは、女性服などをろくに買ってもいなかったんですよね。服装とかよりも体への嫌悪感が先立つタイプだったので、まず体をどうにかしてからでないとこんな体のままでは女性服なんて恥ずかしくて着れないというような気持ちもあって。

私が実際に性別移行しだしたときには、ネット上で探してもホルモン治療やSRSの話はいくらか見つかるものの、裁判の話などはほとんどありませんでした。なので、この記事がそうした情報を探しているかたの参考になったらいいなと思います。

私が書いた大作自分史に関しては、探してみたらきちんとファイルが保管されていたので、固有名などをぼかしつつ当たり障りない部分だけでも「こんな感じのものを書きました」と公開できたらいいかもと思ったりしています。なかなかそういうのも参考にできるものが見つかりませんからね。私のが参考になるかというと、長すぎてあんまり参考にならない気もしますが……。